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セルフヌード
第2章 美しさという暴力
工事中の仮囲いに沿って歩くと、林が続いた。林を抜けると植え込みがあった。
密生した灌木は、色とりどりの花畑を囲繞していた。土を含んだそよ風が、真新しい季節の息差しを連れて、美優となつみをいざなった。
「世界は美しい。人の手では生み出せない、私達の想像を超えるような美しいものでつくられてるんだ」
なつみの構える彼女の愛用カメラがシャッターを切る。
美優は岩石に腰を下ろして、美しい写真家の被写体に徹していた。
「人間が地球を腐らせた、なんて、誰かの妄想だと思う。社会は簡単に落ちぶれない。争いや環境破壊は絶えないよ。犯罪や、功利主義なんか尚更。きっとこれからもっと増えてく。けど、そういうのは人間の仕業でしょ。個人は無力だ。ズルい人や間違いを犯す人はたくさんいる。その人達にはそうなるだけの理由があって、もしかしたら善良そうに生きてる人より、心が渇くようなことがあったのかも知れない。どうしようもなくなることが」
なつみが美優に手のひらを空に向けるよう指示を出す。
…──ここに季節外れの雪が落ちたから、そのままあの雲を見上げて。
あえかな息が美優の首筋を撫でてきた。
「この世界はたくさんの、ほんとにたくさんの人やもの、神様に望まれて、引き継がれてきた地球(ほし)だから、美しいの。人間の目には不恰好に映っても、自然も動物も、人間も、創造物も、無垢に生まれて無垢に散れる本質がある。慕われるような人間にも、物乞いみたいな人間にも、同じだけ意思が与えられてる。選ぶ道は本人次第。優劣なんてどこにもないの。表層なんてどうでも良い。私は被写体の最高に美しい瞬間を引き上げて、収めていきたい。どんなものからでも、見つけ出して、生まれたての輝きを」
「──……」
なつみがカメラをケースに仕舞った。
軽らかな装いにちぐはぐな重厚感を主張していた、そのくせなつみの佇まいに不思議と浸透していたカメラが、派手なバッグをほんの少し膨らませた。