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セルフヌード
第2章 美しさという暴力


 なつみの手が、美優の指を手持ち無沙汰に玩具にする。

 もつれ合う指先。

 こんなに心地好いものを、たくさんの、見目に優れた女達が平気で味わっているのだ。

 なつみのカメラに向かって微笑む数多のモデル達。美しいか、あるいは可憐な彼女達は、美優の知らないなつみの時間に抱かれながら、きっともっと甘い言葉やエスコートを受けている。



「ね、嶋入さん」

「名前で呼んでよ」

「……なつ、み、さん」

「他人行儀やだぁ」

「じゃ、じゃあ、……」

「じゃあ?」

「──……。……な、なつみ……」


 猛熱が身体の芯から噴き出した。
 生きた熱だ。


 頰の熱さを思うと、昨日みたいに突然撮られたりしては、穴に入っても耐え難くなる。


「何で、写真集まで出したのに、スタジオ専門になったの?」

「んー……何でだろ」

「──……」

「そういうとこから、声がかからなくなったから、かな……」



 嘘だと思った。



「みゆさん」

「えっ?……、っ……」


 なつみがこめかみからリボンを外した。
 まるで少女漫画の主人公が身を飾る、大きくて、派手なリボンだ。

 手に触れるのも恥ずかしかったような赤色が、美優のこめかみを飾った。

「…………」

 なつみの片手が美優の腕をやおら引く。指先が、美優の陶磁の頰を捕らえる。



「美優、……」



 恋人にささめくような、少し低めの軽らかな声。


 なつみの腰が自然と浮いた。
 美優の姿勢がなつみに引き寄せられるようにして、傾く。

 二人を見つめるのは草花だけだ。

 ここで何か起きたとしても、神様は二人を大目に見よう。二人の望んだ嚮後であれば、不可視の美が潜むから。



「……、……」


 目蓋を下ろしきる間際、魔性の黒曜石が問いかけてきた。

 美優は、言葉なく頷いた。


「…………」


 耳朶が記憶していた息差し。首筋が微かに覚えた質感。
 美優の唇に、怖れて焦がれていたものが、やんわり触れた。

 重なり合う皮膜と皮膜。二つの温度。

 心臓が、壊れそうに馬鹿騒ぎする。…………



「んっ、……」

 少女のようなキスに続いて、なつみの舌先が美優の唇を愛撫し出す。
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