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セルフヌード
第2章 美しさという暴力

* * * * * * *

 美優を見送った後の私宅は、凄寥たる寒々しさにとりこめられた。


 物置部屋は、淫らなアルカリ性の性臭が未だこびりついている。

 美優の残していった跡。


 出どころ不明の薄明かりにぼやける夜闇(やあん)に垣間見える残像が、かつて無情な写真家であった女を苛んだ。



「あらあら明かりもつけないで」


 他に住人のいない邸宅に、突然、女の声が響いた。鼓膜に粘りつくしゃがれた声だ。


 閉め損ねていた扉の枠に、一人の女が腕をかけて、なつみを見下ろしていた。

 美優とは似ても似つかない。絶無の闇を僅かに清めていた女神の残滓が、無礼な第三者に消散された。


「匂うわ。……不潔な雌。どっかの女に股でも開けていた?」

「帰って」

「んまぁっ!!」

 嵩高な声が野卑な足音に雑音を乗せた。

 女の握力がなつみの肩を掴み寄せ、上体ごと振り向かせる。

 乾いた指が頰を捕らえた。在りし日は美しく彩っていたろう爪を飾った指先に、悪意の白が滲み上がる。
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