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セルフヌード
第2章 美しさという暴力
* * * * * * *
なつみは時計盤を眺めていた。
シェルのフラワーリースの中で、時刻は零時を迎えようとしていた。
刻一刻と静止することを知らない時間は、間断なく秒針と共に終焉を目指す。
存在しない終焉を。
夕餉をこしらえる気にもなれなかった。死に急ぐ肉体を引きずって、生きる努力をおこなうほど、美しい女に相応しからぬ奇行はあるまい。
どこからか入り込んできた春風が、なつみの肌を酔わせていった。
なつみは節々の痛む肉叢をなるべく視界から遠ざけ、バッグからスマートフォンを引き抜いた。
たった一つのツーショット。最初で最後だったかも知れない。
安らぎの欠片。
ショッピングモールで収めたデータを削除した。
スマートフォンの操作を続ける。電話の履歴に、昨夜寝台で戯れた女の名前が最上にあった。
「…………」
耳にあてたスマートフォンから、呼び出し音が鳴っていた。
『はいっ、おはようございますっ、なつみさん!』
四年前の癖が未だ抜けない、業界人らしい定型文が、電話口の向こうで弾んだ。
「ひとみ」
『どうしたんですかぁ?はぅぅ……なつみさんのお声、お電話でも美しいですぅ』
「来て」
『え』
「来て。ひとみの可愛い顔、見せに来て」
『──……』
喉をわざと締めつけた、媚びた声。
仔ウサギの狡猾なソプラノが、三十分の猶予を求めた。