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セルフヌード
第2章 美しさという暴力
清々しい朝の空気が、芽吹いてまもない季節の匂いに綻んでいた。
日曜日の開放感が波描(なみえが)く道を、腫れぼったい目をした女が胸を逸らせて行く。美優に睡眠は足りている。ただ、こういう顔なのだ。
緩急定まらない足どりは、喜ばしい場所へ向かっている所以か、あるいは逆か。
昨日の今日に、なつみに会いたくなったのではない。デートのわけを、夕まぐれの情事のわけを、確かめたくなったからでもない。
女の指に貫かれる夢を見て、目が覚めた。下着を汚した自分自身の失態を曝け、苦情を訴えに行くのでも、もちろん違う。…………
なつみがスマートフォンに押さえた一枚の写真。美優は、消去させるのを失念していた。それから新たに撮影された、無数の写真だ。カラバッジョとフラゴナールのコラボレーションが実写化したような昨日の写真が、世間にばら撒かれたりでもすれば、身の破滅である。売値を提示されても素早く対処出来るよう、キャッシュカードも忍ばせてきた。返しそびれたリボンを添えて。
肩が凝りそうなボストンバッグを担いだ学生達が、脇を通り過ぎていく。
公園では、平日の疲労を微塵も垣間見せない親達が、無邪気に駆け回る子供達を笑いながら世話していた。
「…………」
美優の良人も、望んでいるのだろうか。
結婚生活は円満だ。ただ新たな家族にだけは恵まれない。医者は焦りが禁物だと二人を宥めた。それからどれだけの歳月が過ぎたことが。焦っているのは当人より、むしろ二人の親達だ。
公園は、嫌いだ。公園から眺められる豪邸も、長閑な景観を台なしにする。…………
美優の胸裏に幾重もの懊悩が青いミルフィーユをこしらえ、いよいよ胸懐と足どりが反比例を極める頃、軽佻な女の声が響いた。