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セルフヌード
第2章 美しさという暴力



「朝ご飯ご馳走様でした、なつみさんっ。今日お仕事ですよね?新刊楽しみにしてます」

「ありがと。ひとみも午後から頑張って」

「うぅぅ……お仕事しんどいー。電気屋って力仕事なんですよぉ」

「──……」



 ツインテールの女が上目遣いになつみを見上げ、レースの袖から覗いた両手を馴れ馴れしく握り直した。

 緩やかな結び目をつくる二つの手と手。若気に駆られる恋人達がなすような、悪戯なブランコが宙を揺れる。

「復帰すれば?」

「私は元々素人ですもん。モデルじゃ食べていけません」

「そっか。……綺麗な細腕、大事にね」

「もぉっ、やめて下さいよぉっ」

 わざとらしく頰を手のひらに挟んだ若い女が、美女の抱擁を抜け出した。なつみに手を振りきびすを返す。

「…………っ」

 美優は反射的に死角に隠れた。

 女は、美優の自宅の方角へ歩いてきたのだ。

「ぁっ」

 恋に盲目な女の目は、死角に隠れた冴えない女を捉えなかった。女のショルダーバッグが当たって、もつれた足が美優のよろけた身体をもて余す。

「あっ、おばさんごめんなさい」

「…──?!」


 美優が何かしらの反応を示すまでもなく、女はツインテールをぴょこんと揺らして離れていった。



 おばさん。



 可愛い女に悪気はなかろう。あれだけの女からすれば、まさか美優が例の悪辣な女たらしと面識を持っていようなど、想像もつかないはずなのだから。

 顔を化粧で塗り固めて、プロの仕事でようやっと見られる具合になれる美優とは違う。女は、若さに加えて、化粧もほとんどしていなかった。



 美優は十分な時間差をとって、みずみずしい後ろ姿の遠ざかっていた方角へ引き返した。







第2章 美しさという暴力─完─
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