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セルフヌード
第3章 愛玩
「個展?」
「そう。しない?」
「──……」
夕方、なつみは総子と近くのカフェで落ち合った。
大学教授に、風景写真家に、芸術評論家、そしてライター──…。
近況報告というはかなしごとは、相も変わらず精力的な活動を見せる総子の話題が大半を占めた。
「貴女の評判、ファッション界でも有名ね。モデルも、商品も。なつみの写真は全てを写す。私も雑誌を見て思う。貴女を見込んだ私の目は正しかった。それなのに、……未だアシスタントの仕事を進んで務めていることも」
「勉強のためです。顔が売名してるんだー、とか、オヤジ衆がやたらとけなしてくるんです。撮影に専念していると、現場が観察出来なくって、実際問題、目が鈍っちゃって。たまには」
「たまには、という程度かしら。昔のような写真集を依頼して、なつみに振られた編集者。たくさんいるって悪評よ」
「申し訳ないとは、思ってます」
総子の難色から目を背けるようにして、なつみは紅茶を一口啜った。
ダージリンの苦味が舌を苛む。いつか口にしたこのフレーバーは、もっと馨しかったはずなのに。
「貴女にしか撮れないものを、撮って欲しいの」
「スタジオ専門も悪くないんです。私は芸術ってガラじゃない。元々お洋服が好きでしたし。ああいうホームみたいな雰囲気、合ってるみたいで」
「……なつみって、学生の頃から目立ってたわよね。ほんとは静かなところにいたい、それが本音じゃない?今度の個展は私の知り合いが経営しているギャラリーなの。少なくとも、貴女にオファーをかけてきた他に比べたら、規模は小さい」
「有難うございます。でも、……」
傲慢と陰で囁かれようが業界で評判を落とそうが、受けられない理由がある。
美しいものだけを収めていたい。美しい世界だけを信じていたい。
そのためには、──……。
「考えてくれない?」
「それが、わざわざ訪ねてきて下さった用件ですか」
「私が守る」
「え、……」
「私が、なつみを守る。貴女の……盾にでも何にでもなって、絶対傷つけないようにするから」
「…………」
総子の目が、摯実になつみに訴えていた。その唇が唱える通りの意思を湛えて。