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セルフヌード
第3章 愛玩







 あるじの温度をとっくになくしたサンダルは、焦げ茶の合皮が小さな水滴を弾いていた。

 美優が出て行って五分ほど後、雨は止んだ。

 様子がおかしかったのは、今振り返ると、去り際だけではなかった。



 思い出せなかったのは図星だ。

 美優がいつ、どこで、なつみが誰といたところを見かけたのか見当つかない。

 追えなかった。捕まえることは容易くても、おそらくこういう場合に必要な、罪の意識とやらを持ち合わせない。

 なつみには、あんなにも傷ついた顔の美優を納得させられるだけの術がなかった。


 傷一つない、美優の白い、白い顆粒層。
 感じやすい肉叢の行き届いた美優の足は、雨の中どれだけの傷になじられたろう。



 突然、扉が開いた。

 美優が戻ってきたのかと思った。だが、シンデレラが靴を惜しんで引き返すという話は聞いたことがない。


「出迎えてくれるなんて、気が利くじゃない」


 横柄な女の濁声が、うら寂しがるなつみの耳に追い討ちをかけた。

 派手な化粧にカールした短髪、メロウな洋服でさばかり着飾った女は、勝手知ったる私宅にでも帰還した気組みを主張していた。

「この子がそうなの?」

 見ず知らずの女のオードトワレが鼻を掠めた。
 先導の女に比べて若年だ。住人の許可も得ないで土間に上がりこんできた第三者は婉然と腕を組み、冷たい目つきで初対面の娘を舐め回すように吟味し出した。


「こんな上玉、ウチの店にもいないわ。本当に可愛がってやっても?」

「あの人の家内としてお礼よ。貴女は、この子の父親に良くして下さってるんですもの」

「まぁ、ひどい母親」

 女達の陰険な声がどっと上がった。
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