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セルフヌード
第1章 秘密の快楽
* * * * * * *
朝は五分の余裕を持って起き抜けて、眠っている良人の側に屈む。そして美優はパートナーと呼んで九年になる男、良(りょう)の寝顔を盗み見る。
人間から視線をじっと注がれるのは苦手だ。だから美優は良を一方的に見つめられる時間をつくる。
それから洗顔、化粧、着替えを済ませ、台所に立つ。
退屈なまでに健全な恋愛の末の結婚だった。今も、健全だ。
美優と良の間には、いわゆるロマンスがなかった。
身も焼かれるほどの情熱。ドラマ。そうしたものは少女漫画か映画の世界と笑われようが、現に、友人達の話を聞いていても、もう少しは刺激的な起伏がある。
不満があるわけではない。理想は下がったかも知れない。
美優はスクランブルエッグ一つでさえ、高校時代の元上級生の喉に通ろうものであれば、フライパンに転がす片手間、透明な磁石に吸い上げられるようにして、口角がたゆむことがあるのだ。
「はい、新聞」
「サンキュ」
良の人懐っこい顔が、文字の敷きつまる大きな紙に隠れていった。
美優は朝刊に僅かな煩わしさを覚えながら、ケトルを置いたガスコンロに火をつける。