この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
セルフヌード
第1章 秘密の快楽
「コーヒーで良い?」
「美優は紅茶だろ」
「うん」
「美味い?」
「私は好き」
「俺も今日はそっち」
「っ……」
秘密基地を見つけた子供のような顔が、紙面の壁から覗いていた。
「──……」
心臓には、生涯鼓動可能寿命というものがあるという。
人間に与えられた運気も同じだ。美優は使い果たした。
良から愛の告白を受けた十五の時分に半分を、そして九年前、二十四歳の誕生日、エンゲージリングをもらった瞬間、払底した。
美しくさえ生まれていたなら、変わっていた。美しくさえあったなら。
コンプレックスは疑雲をもたらす。美優に備わる自己愛は、他人に比べて薄弱だ。
良の真摯な想いを受けとめながら、疑ってもいた。
帰宅のキスも、出発のキスも、良は美優に求めない。セックスは、一晩につき一度きりだ。美優が果てたところで終わる。しかも毎回、同じ愛撫に同じささめき。定石通りだ。