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セルフヌード
第3章 愛玩


「良先輩と、喧嘩でもした?」

「どうして?」

「一昨日はまだしも、みーこはこういうの手にもとらなかったじゃない。店員の立場で言いたくないけど、友達として。本は勧めない。何かあるなら、私に話して」

「ち、がうよ……可愛い本だし、一度見てみたかっただけ」

「本当?」

「──……」


 はるこの理論は正しい。本が万能であるなら、今頃、誰もが満足のいく嚮後を迎えている。

 これだけたくさんの本があっても、美優に当てはまる例はなかった。参考になるだけの例が。

 著者には著者の体験があり、著者だけの打開策がある。

 もっとも、それは美優にはるこの言葉が差し響いたに過ぎないか。


「良くんとは上手くいってるよ。今朝もね、来週の誕生日、何が欲しいかって訊いてくれて。分かんないって言ったら、じゃあ休みにデートして、一緒に選ぼうって。えへへ、楽しみー」

「そっか。……うん、だったら安心」

 とても安心したようには見えないはるこの顔が、美優にでも分かるほどの作り笑いを見せた。



 結局、美優は本を選ぶのをやめた。



 八年の交際期間と、九年の結婚生活。

 良は美優と十七年も一緒にいて、毎日顔を合わせていた頃から変わらない。むしろ歳月を重ねた分だけ、家族として、女として、美優に傾く純朴な情熱は精気を増す。



 決めたばかりだ。

 道徳に背く行為を続けるくらいなら、セルフヌードを諦める。


 配偶者がありながら、情人と肉体関係を持つ人間など、はみだし者だ。

 今なら間に合う。

 美優は、脅迫されて、やむなく従っていただけだ。
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