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セルフヌード
第3章 愛玩


「……。あ、……」


 右手だけ、自由が戻った。

 とかれたばかりの手のひらに、スマートフォンを握らされる。


「気になる番号、片っ端からかけて良いよ。……私にベタ惚れして彼女になったって、美優にだから言わせてあげる」

「冗談……」

「冗談でせっかくの被写体の拘束はとかない。私って綺麗で可愛くてモテるから、平均的な感覚、ないの。美優が寂しがるのはよーく分かった。そういうとこ、美優はますます可愛いってことも。あ、でも総子さんと叔母はやめてね」


「…………」





 それからなつみと話して分かった。

 美優が見かけたのはなつみの恩師、総子だった。

 ツインテールの女のことも。

 『少女crater』を開いただけでは気づかなかった。いつかの女は月の瑕疵を演じたモデルだ。なつみ曰く、彼女、ひとみはそそっかしいところがあって、女子高生相手にでも目の錯覚でおばさん呼ばわりするらしい。


 落日の陰に包まれて、美優はなつみの腕の中で、満たされきった身体を休ませていた。


「総子さんは、志が高いの」

「…………」

「守る、なんて。出来もしないこと、さらっと言うんだ。ウケるよねー」

「…………」



 結局、美優はなつみのスマートフォンに手をつけなかった。



 愛玩されているだけの、アヒルの子で構わない。



「お漬物、美味しかった。美優をお嫁さんにしたら毎日ああいうのが付くの?」

「……やめてよ」

「来週、誕生日だっけ」

「うん」

「お祝いさせて。十三日は、朝から空けとく」




 美優は戸惑う。頭に仕舞ってあるスケジュール帳の中で、良とのデートの約束も、真新しい予定の影に色褪せる。


 足は、瘡蓋があるのも忘れていた。
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