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セルフヌード
第4章 光と闇

* * * * * * *

 良を送り出した朝、美優は一時間かけて洋服と化粧をとり替えた。


 誕生日の朝の空が、こうも美しかったことはない。


 のべつ視界の脇役だった空は、仰げば淡いパステルブルーの花びらを重ねた泉だ。やんわり滲む金色は、明るい色彩に飾った美優の肌にまといつく風の抱擁に、芳しい季節の香りを運ぶ。
 街路樹の足許に散る薄紅色のレースの絨毯、ショーウィンドウですますマネキン、それから道ゆく人々のちょっとした行動さえ、美優の頑なだった表情筋を、おかしいほど綻ばせた。



「お姉さんお姉さん」


 美優が駅の改札口近くに足を止めると、闊達な男の声がした。


「シカトぉ?ねぇお姉さーん」

「私ですか?」

「貴女しかいないっす。俺ら暇してるんだけど、お茶でもどうですか?」

「っ…………」


 茶髪と黒髪。色黒と、色白。
 年のほどは二十代半ばといったところか。

 青春ジャンルのテレビドラマにまみえるような男達が、愛想良い前歯を出して、美優を見ていた。


「待ち合わせしてるんです。ごめんなさい」

 …──お暇なのに、こんな年上のブスしかいなくてごめんなさい。

「それって彼氏?彼氏でしょ」

「俺らとどっちがイケてる?ねぇねぇっ」

「……良人がいるんです。……」

「また冗談ー。お姉さんそんなこと言わずに遊んでよ。ちょっとだけ、ねっ?ねっ?」

「っゃ……」

 男の一人が美優の腕をぞんざいに掴み、もう一人の腕が肩にまとわりついてきた。


「困りま……」

「いでっ」


 突然、美優の腕に指をうずめていた男が視界から消えた。

 続いて肩が、連れの腕から解放される。
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