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セルフヌード
第4章 光と闇







 商店街を抜け出ると、若者向けのビルがある。

 近代的な高層ビルは、今時のファッション誌に名前を連ねるブランド直営店が集結しており、気軽に立ち入れるような場所ではなかった。


 テレビや昨日の夕餉の話──…美優はなつみととりとめない話題に興じる内に、うっかり例のビルに足を踏み入れてしまった。


 きらびやかなビルの中には宮殿があった。


 ドレープのかかったカーテンに、猫脚の陳列棚、ロカイユ風の装飾が施してある全身鏡に、甘くファンタジックな薔薇の匂い。

 ロリィタとまではいかなきにせよ、なつみが勝手知ったる足どりで美優を連れて入ったテナントは、彼女がいつも身につけている感じの洋服がとりどり並び、姫テイストは内装まで徹底していた。


「彼女、誕生日なんです。私はいつもの格好も好きなんだけど、前に着せたらすっごい似合って。こういうチャンスでもないと、遠慮させちゃうし。かおりさん、適当に……というか、気合い入れて選んでもらえます?」

「いつも有難う。ご希望は?」

「出来るだけ地味なの。こう見えて内気でネガティブだから、私が好きな感じだと、気後れしちゃう人なんで」

「あはっ、嶋入さんそういうとこ相変わらずはっきりしてるー」


 美優はかおりという名の店員に勧められるがまま、着せ替え人形よろしく試着した。

 星座柄の総プリントが入った夜空の色のワンピースに、コットンキャンディカラーのボレロにアイボリーのプリーツスカート、立て襟ブラウス、黒いアンサンブルと同シリーズのアシンメトリー巻きスカート──…かわるがわる装う美優に、なつみが歯も浮くような賛辞を浴びせる。

 美優は誉め殺されるようにして、文字通り寿命を縮めるのではないかと心中穏やかでいられない。
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