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これはお仕事です。
第2章 家族
コンコン
「どうぞ」
低く子宮に響く、威厳のある声だ。度胸の据わった美和でも身体を強張らせた。
「社長、お連れしました。」
全面窓ガラスの部屋は、逆光で眩しく、美和は思わず目を細めた。
「ああ、大きくなったね。香澄(かすみ)にそっくりだ。」
肘掛のある高そうな革張りの椅子に座る50代くらいの男性は、目尻の皺を作り答えた。
先ほどの品定めをするような秘書課の人間とは違い、
美和の目をまっすぐに見つめるは華乃瀬商事の社長である華乃瀬辰治(はなのせ たつじ)である。
社長は50代であると、入社する前に資料を見たが30代と言われても不思議ではないほどに艶やかな肌としゅっとしたモデル体型を保っていた。
背が高く美和が出会ってきた50代の男性とは全く格の違う男性なのだと一目にしてわかった。
威厳の裏に優しそうな性格を思わせる笑い皺は、緊張で強張る美和を安心させた。
「あの、香澄.....ってお母さんの事ご存知なのですか?」
まさか就職先で社長の口から母の名前が出るとは予想もしていなかった美和は、目を丸くさせた。
「美和ちゃん。僕の事を覚えてないかな?」
辰治は、少し残念そうに眉毛を下げた。
席を立ちそっと美和の方へと歩みを寄せた。