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これはお仕事です。
第2章 家族
ふと、仕事モードに入った美和は思い出したように尋ねた。
「あの、社長専属秘書は何をすればよろしいですか?」
数秒の沈黙が走る。
辰治は少し迷った素振りを見せた。
「業務説明の前に話さなければならないことがあるんだ。
美和ちゃん、失礼ながら調べさせてもらったんだが、
ずっと育ててくれていたお婆さんが昨年亡くなられたらしいね。」
調べたというワードに驚き、えっと声を洩らす。
美和が話すのを待たずに辰治は続ける。
「あの時からずっと美和ちゃんの事は気になっていてね、何か出来ないかと罪滅ぼしのために調べていたんだけど。
もし、迷惑でなければ僕の家で暮らさないかい?」
美和は急な申し出に戸惑い、声を荒あげていた。
「え!そんな!!!いきなり!!
母の知人で昔お世話になっていただけですので、お気づかいなく!!!」
余りにも強く否定してしまったので、しまったと後悔した。
ひやりとこめかみに汗が滴る。
「深く知りもしないおやじと、一緒に暮らすのはやっぱり嫌だよね。
ただ、僕は香澄さんに本当にお世話になったんだ。それはもう、一生尽くしても足りないくらいにね。
なのに、お葬式にも行けなかったなんて。
この10年と少しの間ずっと後悔してきたんだ。」
ずっと口角の上がっていた口元や、目尻の笑い皺が消えていく辰治。
美和も同じように、少し言い過ぎてしまったかと肩を落とした。
それにしても母が彼にしたことが気になる。
大金を貸した?命を救った?
問い詰めよと声をかけようとしたが、
辰治は目を合わせようとせず、聞かないでくれとうつむいていた。
「あの、社長がおじ様だから暮らすのが嫌という訳ではありません。
しかし、母がした事ですのでお気になさらず。
私も今新しい部屋へと引っ越しの準備をしているところ、、、
「そうか!良かった!!!まだ引っ越しは完了していないんだね!」
美和の話しを遮り、辰治は無邪気に喜んだ。
辰治のペースにのまれた美和は、あの、その、と言葉を全て遮られていった。