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それでも・・愛してる
第20章 待っていた客
そして慌ただしく月日が流れ、松下不動産で働き始めて1年が過ぎた。
2月3月は初めて味わう超多忙な毎日だった。
年度末に向けての転勤や大学に進むために親元から離れる学生などが、
部屋を探しに大挙して押し寄せてきたせいだ。
遅くとも3月半ばまでには部屋を決めなければ新年度に間に合わなくなる。
引っ越しもしなければならないし、
なんといっても良い物件を見つけるために早めに動き出す人たちも多いので、
静江さんも私も一日に何人ものお客を相手に部屋を紹介し、案内に出た。
「石田さんもすっかり不動産屋がイタにつきましたね。
もう安心して任せられますね」
社長も静江さんも、そして杉下さんと横山さんも
私をすっかり頭数に入れてくれている。
始めた頃のおぼつかなさに、顔には出さずとも心配でしかたなかったであろう。
私自身も不安だった。
その私が自信をもてたのは、滝川さん親子の家を見つけられた時。
松下不動産には何の得もない仕事だったが、
あの時かかわった不動産屋のベテランたちに教わることも多かった。
その教えを自分のものにして、少しづつ積み重ねてきた。