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催眠玩具
第12章 二律背反
私の話というのはこうだ。
昨日、出先で財布を落として困っていたが、警察から連絡があり、男子高校生らしき人物が届けてくれた。
「らしき」というのはその人物が名乗らなかったためで、財布だけを預けてすぐに交番から立ち去ってしまったのだという。
ただ、お巡りさんが制服を憶えていて、そこからこの学校の生徒だということだけがわかった。
そこで私はお礼の為にこの学校を訪れ、昨日欠席した生徒さんを探して貰おうと考えたという筋書きだ。
嘘は度胸とディティールだ。
そんなことを亜理紗と話題にしたことがある。
ぬけぬけと語られる作り込まれた話に、人は簡単に騙される。
ビジネスと取材という現場の違いはあれど、亜理紗はお客との駆け引きで、私は取材対象との交渉で、ハッタリで切り抜けなければならない場面が幾度もあった。そんなエピソードを打ち明け合ったりして笑ったものだ。
教務主任は私の作り話を信じたようだったが、今度は個人情報がどうのこうのと言い出した。
生徒を呼び出してお礼を伝えるぐらいの些細な事だと思っていたのだろう。明らかに面倒臭そうな顔になる。しかし、それも想定の範囲内だった。