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催眠玩具
第12章 二律背反

 ……考え事をしながら歩いていたせいかしら?

 そういう事はあってもおかしくはない。
 このとき私はそのこと自体に困惑はしなかった。

 むしろ、困ったのはここまでの他の教室中の様子をちゃんと見て来ただろうかということだった。

 ぼんやりと歩いてしまったのなら、すぐに引き返してもう一度見直したほうがいいだろう。
 授業が終れば、生徒たちも外に出て来てしまうだろうし……。

「こうして、足利尊氏によって開かれた室町幕府は……」

 教師の声が廊下に漏れ聞こえる。

 下の階からもう一度見直したものか、とりあえずこの階だけでも先に見てしまうかと考えていた時、背後から声が掛かった。

「……やあ、待ったかい?」

 誰かに見咎められて「何をしているのか」、「誰なのか」と質問されることは想定していたけれど、「待ったかい?」とは。

 場違いで、しかも気安い問いかけに怪訝な顔で振り向く。
 そして私は息を呑んだ。

「……あなたは!」

「僕の方は、少し時間がかかったものでね……」

「どうしてここに……高城さん!」
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