この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
催眠玩具
第8章 ほんとうのこと
「社長……」
一瞬よろけた亜理紗の体を支えようと、サチが手を伸ばす。
「大丈夫……!」
亜理紗は身を引くようにしてバランスを取り戻した。
「……大丈夫。ええ、昨日、体調を崩して……まだちょっと調子が悪いみたい」
苦しい言い訳めいた表情を作り、逃げるように一番奥の自分のデスクへと向かい、途中で気付いてサチに答えを返す。
「ああ、そうだ。高城さんなら来てくれたわよ」
そして再び彼女と目が合い、後ろめたいような気持ちで付け加えた。
「……インターフォン越しだったけど」
昨日は一日中朦朧としていたような気がする。
多分、眠っていたのだろう。ぼんやりとしか記憶がなかった。
高城が様子を見に来てくれたことは薄らと憶えていたが、マンションのエントランスに立つ高城と二言、三言何か言葉を交わしただけで……その内容すら定かではなかった。
せっかく高城が家まで来てくれたというのに。
サチに言われる今の今まで失念していたが、大きなチャンスを逃してしまったかもしれないと、亜理紗は初めて気がついた。