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陽炎 ー第二夜ー
第1章 女郎蜘蛛
しかし、女郎蜘蛛とは。

昨夜のウメを思い出し、これ以上の得て妙はないと感じる。

男を咥え込み、精を搾り取って殺すか…

兵衛は考える。

所詮浮き世は狐と狸の化かし合い。
ならば、ウメ程度の嘘は可愛いものだ。

ウメの身体に溺れれるのは危険かも知れぬが兵衛ならばそれもない。
元々金も持たず、物乞い覚悟で組織を離れた兵衛の、闘争本能が疼く。

あの女、飼い慣らしてあの家を手に入れるか…悪くない話だ。


負けても失って困るものなど何もない。

喰われて死ぬもまた一興。

ならば、挑むしかあるまい。

女郎蜘蛛だろうが女狐だろうが、相手にとって不足はない。

兵衛はニヤリと口角を上げ、丁寧に礼を言って、卓に茶の代金を置くと、再び籠を呼び、今朝出たばかりの家に戻る。

ウメは思わぬ兵衛の帰宅に驚いたようだったが、直ぐに妖艶な笑みを浮かべ、兵衛を迎え入れる。

その笑みの向こうに、今日はハッキリと毒花が開く様が見えた気がした。

兵衛は喉の奥でクッと笑う。

「またしばし、ご厄介になろうかと思うての。」

「どうぞ、幾日でも、ご逗留下さいませ。嬉しゅうございますわ。」

確と視線を絡ませ、睨み合う。

喰うか、喰われるか。


今、勝負が始まる…




女郎蜘蛛ー了ー

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