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陽炎 ー第二夜ー
第2章 勝負師
「お前、鷺みてぇな顔してんな」

最初に俺を鷺と呼んだのは、あの人だ。
生まれた時から目の見えなかった俺は、自分の顔がどんなかなんて考えたこともなかった。
毎日手で顔を触って、汚れが付いてなきゃそれでよかった。

「鷺って…なに?」

「鳥だよ。デカくて、綺麗な。白いのとか青いのとか色々いるけどな。目が赤いヤツもいる。…ちょうど、今のお前みてぇにな。」

色がどうのと言われても、さっぱりわからなかった。

「何が辛くて泣いてんだ?」

自分の目元に触れてみる。
指先に、涙の湿り気と、いつもより腫れた瞼。
泣き止んで随分経つのに、見てわかるほどのものなのか。
その時、泣いていた理由などとうに忘れたが、あの人との出会いは強烈で。
とても忘れられるモンじゃなかった。
しきりに顔を触る仕草でか、

「目が、見えねぇんだな。」

と言われた。
俺はコクリと頷いた。

「ここで、何してんだ?」

「何も。俺には何もない。楽しいことも、嬉しいことも。辛いことも悲しいことも。な〜んにも、ない。ただ、腹が減りゃ飯食って、眠くなりゃ寝て。退屈で死にそうなのに、退屈じゃ人って死ねねぇんだな。」

スッと、人が近寄ってきた気配がした。
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