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陽炎 ー第二夜ー
第3章 願わくば花の下にて
女が女の格好をして、などと言われるわけがないから、男なのか…
こんなに綺麗なのに。
気後れどころの話ではなかった。

「あ、あたしは…みたらしにしとこうかな…」

八尋は頷き、

「鷺は?」

「俺は焼き味噌でいいや」

「わかった。…お兄さん、ちょいといい?」

袂を抑えて腕を上げ、店の男を呼ぶ。

「お団子頂戴な?こちらに焼き味噌、あとあたしたちにみたらしを一本ずつ。それから、お茶を三つ。お願いね?」

流し目で男を見つつ、髪を触ったり、袂から腕を僅かに覗かせたり、団子を注文するだけなのに、妙に艶めかしい。店の男は注文を聞き、

「はいよ、みたらしが二つに焼き味噌だね」

と店の奥に下がっていったが、その鼻の下はだらしなく伸びていた。

程なくして、団子と茶が運ばれてくるが、みたらしが一本分多い。しかも、串の数で後から怪しまれないようにか、あらかじめ串が抜いてあった。

「姐さん美人だからよ、一本おまけしとくよ」

「あらいいの?おなか空いてたの!でもそんな事して大将に叱られないかしら?」

小首を傾げ、上目づかいで目を瞬かせ、男を気遣う素振りを見せる。

「いいってことよ!その代わり、また来てくれよ!あんたみたいな美人が来てくれりゃ仕事に張りが出るからよ」

耳元で囁き、男は下がっていった。
八尋は男が離れる間も袖を振って見送る。
男が離れた頃合いを見計らって、こちらに向き直り、
素の顔に戻ると、

「ね。得だろ?」

と、団子が多く乗った皿をるいに回す。

鷺もるいも、呆れて物も言えなかった。

「お前、買い物すんのにいちいちあんなしな作ってんのか?」

「別に、あれで安くしてくれんだからいいじゃないか。温かいうちに食べよう?」

そう言うと、何事もなかった風に団子を食べた。


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