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恋花火***side story
第29章 KOAKUMA
「……なにこれ?」


その日はコーチの都合で鬼練が早く終わり、いつもよりも3時間ほど早く帰宅した日だった。


仲良さそうに帰宅する菜月と陸先輩の姿を見かけたけど


見ないふりして走って帰った日。


ふと、家の廊下にキラキラ輝くものを見つけた。


母親は仕事なのかデートなのか知らないけど、家の中はシンと静まり返っていた。


「うわっ!」


リビングのドアを開けて驚いた。


電気もつけず、母親がソファに座っていたから。


「わぁ!ビックリした。」

「いや、それこっちのセリフ。」

「今何時?えっもう18時!?ごめん、今から急いでご飯作るから!」


母親は俺に気付かれまいといつも通りを装う。


だけどそれは意味のない努力。


唇の端が切れて赤くなっているし


首元から覗く鎖骨よりももっと肩の部分には、青タンが見えた。


よく見ると廊下でキラキラ光っていたのは、割れたグラスの破片だった。


…誰にやられた、それ。


その時頭を過ぎったのは、数日前に家の前で会った変な男。


それには理由がある。


あいつに手渡されたポーチを母親に渡したときに、顔が強張ったからだ。


俺にバレて都合が悪いというよりも、何かに怯えてるような表情に見えた。


けれど俺はその時なにも言わなかったし、聞かなかった。


知らないふりってやつ。


試合目前だし、自分のことで精一杯だったから。


それに学校では菜月と陸先輩のこと嫌でも見なきゃだし


わけわかんねー巨乳女に付きまとわれてたし…


そんなときに母親と話をする余裕なんか少しもなくて。


だけどこの時にきちんと聞いておけば良かったと


その後何度も後悔をした。







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