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恋花火***side story
第30章 RUN RUN RUN
人は絶望した時


目の前が真っ暗になるとか言うけど


見える景色はなんら変わらないように思えた。


…別に菜月がいなくたって


毎日朝がきて昼がきて


そして夜になるんだろ。


菜月の家をあとにして家に帰る。


帰りたくないけど


生活力も何もない俺は、ここしか帰る場所がない。


「タケル…」


俺が帰ったことに気付いた母親が、部屋に来た。


「あの…さっきのことなんだけど…」

「大丈夫なのかよ。」

「え?」

「傷。殴られたところ。」

「あ…うん。もう平気。それよりタケル…あの人のことなんだけど…」


自分の身体のことよりあいつのこと?


それなら話は聞きたくない。


けれどそれすら言う元気はもうほとんど残っていない。


「…許してあげてね…」


…は?


今、なんつった?


「悪気はないの。本当は優しくてとても素敵な人なんだよ。ただ酒癖が悪いだけで…」


酒癖が悪いって、それ全然素敵な人じゃねぇから。


「それに、あんまり菜月ちゃんのところに行かないでほしい。」

「…なんだそれ。言われなくてももう行かねーよ。」


さっきハッキリ拒絶されたし


もう行くこともない。


「…菜月ちゃんだってお年頃なんだよ。彼氏もいるって話だし…」

「うっせーな!黙れよ!!」


思わず大きな声が出た。


そして続いて、手が出る。


「…殴るの?私のことも。」


寸前のところで拳が止まった。


「…タケルの目は、すごくあの人に似てる。だから時々、目を合わせるのが嫌になる…」


あの人ってのは、きっと俺の父親のこと。


"父親似かな"


似てちゃわりーのかよ


おまえらが勝手に産んだくせに


なんでそんなに邪魔にするんだよ


「…出てけよ。」


俺が本当に殴っちゃう前に


「出てけよ!!もうその面見たくねーんだよ!!」


本当は俺の顔を見たくないだなんて


そんなこと言われるなんて


思ってもみなかった_____
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