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第31章 冷たいキス

「タケル〜」


こんな日に限って


菜月が会いに来た。


だけど会いたくなかった。


菜月の夢はサッカー選手のお嫁さん


別にそれを叶えるのは俺じゃなくて


陸先輩なのはわかっているけど


たったひとつの望みが絶たれた今


こんなにも苦しい。


この感情はアレに似ている。


好きな芸能人が結婚してしまって、自分が結婚出来るなんか思ってないけどめちゃくちゃ悲しい。


そんな気分に似ていると思った。


うちの高校は優勝した。


俺がいなくたって、勝てる。


だったらこのままサッカー出来なくなっても誰も困らない。


菜月には陸先輩がいるし


俺なんかいなくてもいいじゃん。


母親だって俺がいなくなればせいせいするんだろ。


もう俺はいなくてもいい人間なんだ。


そう思った。


菜月は俺の脚の状態なんか知らないから


いつもみたいに無防備な笑顔を向けてきた。


…この笑顔が俺のものにならないなら


もういっそのこと、壊れてしまえばいい。


そしてめちゃくちゃになって


菜月の世界から俺を消してよ。


そうすれば俺も消えるから_____





……キスをした。


今までで一番長く


そして冷たいキスをした。