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恋花火***side story
第33章 パンドラの箱
その日から、あいつはあまり姿を現さなくなったように思う。


あんなに毎日家にいては、暴れたり叫んだり好き放題やっていたのに。


ここ最近は全然。


俺はそれを良しとして、家にいる時間も増えた。


ここで過ごすこともあと僅かだし


空の色や、空気の匂い


…海の輝きも、なにもかも


きっと東京では味わえないものだから


忘れないように


目に焼き付けようと思った。








プルルルル


部屋にいたら、家の電話が鳴ってることに気づいた。


ウトウト寝かかっていた俺は、早く出ろうるせーとか思いながら目をつぶっていた。


「…家には電話してこないでってお願いしたじゃない。」


耳に届いたのは、電話に出たであろう母親の声。


俺がいることを知らないのか、割りかしデカイ声だった。


…もしかして、あいつか?


母親が別れを切り出し、それでもしつこく連絡してくるのかと思い


とことん嫌な奴だなと感じた。


もう二度と来るな。


俺からも言ってやろうと思った。




「私がタケルにうまく伝えるから、あなたからは_____」


言いかけている母親の手から、受話器を取った。


慌てた母親の顔。


その顔を不思議に思いながら、受話器を耳に当てた。


「_____タケルか?」


え?


そこから聞こえてきた声に、俺は耳を疑った。


…あいつじゃない。


「…わかるか?俺のこと、忘れちゃったか?」


声の主は


家を出て行った父さんだった。



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