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恋花火***side story
第33章 パンドラの箱
さっきまで、めちゃくちゃ沈んでたのに。


雪に喜んでる菜月見てたら、自然に笑うことが出来た。


「海?私も行きたい!」


菜月が後ろからついてきた。


ちょこちょこ子犬みたいに。


時々その足音がいきなり聞こえなくなるから、急いで振り返る。


すると菜月は、凍った葉っぱ眺めたり、触ったり。


……ビビる。


振り返ればいなくなってるんじゃないかって。


あの日の、父さんみたいに。








「菜月!」


ちょっと目を離したすきに、菜月がテトラポットの上で転んだ。


「痛くないよ。平気。」


痛みに弱いくせに、強がる菜月。


前はこんなんでもピーピー騒いでたのに…。





二人並んで、冬の海を眺めた。


波は高く、うねりを成している。


…この海に飛び込んだら


確実に死ねる。


そうしたら


今感じている辛さも、苦しさも


何もかも全部忘れられる……










…いや、忘れたくない。


俺は菜月と出会ってからこれまでのことを


忘れたくなんかない。


例え辛くても、苦しくても


菜月を忘れることなんか出来ない。





菜月の温もり、匂い、声


その全てを


忘れることなんて_____





久しぶりに菜月と二人きりだからか


単純な俺はまた


うっかりベラベラとしゃべってしまった。


…俺は両親なんかいらない。


人は贅沢な悩みだと言うかもしれない。


…神様


もし、いるのなら


俺は親なんかいらないから


その分菜月に分けてあげてほしい


頑張り屋さんな菜月が


どうか幸せになりますようにと


冬の海に願った。












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