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恋花火***side story
第37章 あの頃この頃*Riku
郁は特に用もなく、こうしてふらりと立ち寄ることが多々あった。


今日だって、部屋に来たのは23時過ぎ。


ただ寝に来ただけのようにも思えた。








「おまえさー、もうやめとけば?」


寝る間際、郁はこちらではなく、天井を眺めながらそう呟いた。


「…やめとくってなにを?」

「彼女のこと。普通に考えて、もう無理だと思うけど。」


先日、郁はグラウンドにもふらりと訪れていた。


何の用かと思えば、彼女を見せろと言う。


しかも、菜月ちゃんの事を知っている華をわざわざ引き連れて。



「…無理ってなんでわかんだよ。」


俺も心の何処かでは、きっとそう思っている。


だからこそ、郁の言葉に噛みつきたくなる。


「……あの子、おまえといても笑えてなくない?」


オブラートに包むという事を知らない郁。


苦味をまともに食らった。


「そんな事言って、まだ一回会っただけじゃん。」

「それにおまえも笑えてないよ。」

「んな事ねーし。」

「余裕なさすぎ」


そんな事、言われなくてもわかっている。


部室や家の前、至る所でキスをしたり、SEXをしたり。


いつ誰に見られてもおかしくない状況の中で事に及ぶのは、思いやりに欠けているし、モラルなんかあったもんじゃない。


「そうまでして繋ぎとめて、なんか意味あんのか?」


郁は今日、何も目的なく来たわけじゃない。


きっとこれが言いたくて来たんだ_____


そう思った。


部屋の電気は消され、月明かりだけが差し込むこの部屋は薄暗く


郁の表情は見えなかった。


だけどその口調や空気から、どんな表情をしているのか、手に取るようにわかる。


「もうやめとけ。これ以上追っても、傷つくだけだぞ。」


弟を心配している兄からの忠告。


それを俺は無下にする。


「うっせぇな。口挟むなよ。もうなんも言わねーって前言っただろ!」


無意識に強くなる口調。半ば意地にもなっている俺は、もう引けない所まで来てしまっていた。


「…ガキだな、相変わらず。」


その言葉にカッとしてしまうのは、きっと図星だから。
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