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恋花火***side story
第39章 大都会*Takeru
空が夜色に向けて動き出した頃、部屋のドアがコンコンと鳴った。


ここには、インターホンというものがないらしい。


布団が届いた。


これは自宅で使っていたもの。


家を出るより先に宅配サービスに預けておいた。


社長は、布団は前にここの部屋を使っていた人が置いていったものがあると事前に言っていたが、俺はどうしても使い慣れたこいつが良かった。


それに、こんな埃まみれの部屋に置きっぱなしの布団だなんて。寝たら病気になりそうだと思いながら、運ばれてきた布団を開封した。


すると一瞬で、懐かしい気持ちになる。


けれどそれは喜ばしい感情なんかじゃない。


今はむしろ、辛い。


この布団からは、微かに菜月を思わせる匂いがする。


菜月とこの布団で眠りを共にしなくなってからもう何ヶ月も経つのに。


物思いに耽るのはやめよう。


後ろを振り返ってもしょうがない。


前を向くしかないのだから。


むしろ前に進むために、地元を離れここへ来たのだからと自分を奮い立たたせた。


_____そう、俺にはやらなければならないことが、たくさんある。








翌日はまだ仕事が始まらないので、日常品の買い出しついでに、病院へとやって来た。


以前テレビで見た神の手を持つドクターは向こう何年も予約が入っている。何年も待つ気も時間もない。


そこで俺は、そこそこ腕の良さげな整形外科医を調べ、何年も、なら無理だけど。何ヶ月かは待てるので、当初とは違う予定の病院へと出向いた。


セカンドオピニオン。


僅かの可能性に賭けて、病院の玄関をくぐった。
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