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恋花火***side story
第8章 プレゼント
事態を飲み込むのに時間がかかった。


…いや、飲み込めないまま、ただ時間だけが過ぎてゆく。


しばらく呆然と突っ立っていると、エリカが急に立ち上がり、洗面所に駆け込んだ。


ゲホゲホと咽せる音がする。


そういえばエリカはここの所体調不良が続いていた。


洗面所に行くと、エリカがいっぱい吐いていて


ザーザーと蛇口から水が流れていた。


「…悪阻だよ。」


エリカの恋人だと名乗ったそいつもいつのまにか洗面所に来て、そう言った。


「…悪阻?」

「なんも知らねーくせに、やることだけは一丁前なんだな。」


悪阻って


妊娠すればなるやつだ。


それは知っている。


妹ができたとき、母さんがよく言っていたし。


だけど実際どんなものかはわからなかった。


「…可哀想に。苦しいよなぁ。」


その男はエリカに近寄り、背中を撫でた。


「今堕ろせば楽になるから、あとちょっと頑張れ。」


…は?今なんつった?


「…堕ろす?」


俺のつぶやきにそいつは笑った。まるでバカにするように。


「当たり前だろ。おまえの子なんだから。俺可愛がれねーし。」

「俺の子ども…?」

「そ。100%おまえとエリカの子どもだよ。」


そいつが言うには、エリカとする時は必ず避妊をしていたらしい。


それに、ここ数ヶ月


まるでその行為はしていないと断言した。


「…おかしいと思ったんだよ。」


男の隣では、まだエリカが吐き続けている。


「いつも忙しいって言って俺の誘い断るし。会えたとしても、キスもSEXもなし。そんなん誰でも気付くって。上手く隠してたつもりかよ。」


男はエリカの髪を強くひっぱった。


「いたっ…」

「しかもこんなガキ相手に孕まされてさぁ。」

「離して…、お願い。」

「堕ろすよな?もちろん。」


その問いかけにエリカは無言だった。


それが男に火をつけたのだろう。


男はエリカを蹴った。


鈍い音がして


エリカは床に尻もちをついた。

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