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文句言いっこなしの三重奏
第7章 和音
『じゃあ教科書開けー。全員予習はしてきてるな?端の列から当てていくぞー』
じわじわと、
夏の陽気が照りつける窓際の席。
カーテンの隙間を縫って、細く差し込む直射日光が。机に広げた教科書と、僕の左腕を容赦なく焼き焦がす。腕一本の犠牲の上に、せっかく開け放っている窓からは、ただ。もんやりとした気怠げな空気しか入ってこない。
『まずは前回の復習から。源氏の君が──』
受験対策と称し、三年生の教室にだけ取り付けられたエアコンの…その、室外機の温風が。下級生のやる気、並びに、命を脅かしているというこの事実。ウチの学校は、どうオトシマエをつけてくれるつもりだろうか。
『次の訳を…英。』
『はい…“とても趣きがある” 。』
何が “いとをかし” だ。
古典の世界に、灼熱の夏はやってこない。エアコンも室外機もない代わり…正常に巡ったであろう、日本の四季折々を愛でて。焦がすのはせいぜい、恋心くらいか。なんとも平穏な世界だことで。