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文句言いっこなしの三重奏
第7章 和音


『なーなー英〜。扇風機の風、ちょっとこっち向けてくんね〜?』

『えー?おい、それずりーだろ。それならこっち向けろや〜』

『ねぇちょっと、あんた達レディーファーストって言葉知らないの〜?英くん、こっちお願〜い。』


僕達下級生の教室にも、一応の熱中症対策は取り付けてある。各クラス、僅か二台の扇風機は…右に左にいくら首を振ろうが、大した涼をもたらしはしない。


『……誰にも向けないよ。不公平だし。』


そもそも出てくる風は、外気温そのままだけど。それでも首の角度を変えようものなら、必ず不平不満は出る。無難な角度に調節されたそれは、ただ、教室上方の空気を、そよりとかき混ぜているに過ぎない。


『コラそこ。授業に集中しないなら当てるぞ。……で、とにかくだ。枕草子は“をかし”の文学、源氏物語は“あはれ”の文学と言われていてだな。あーこれ、テストに出すからなー。ちなみに、“あはれ”には色んな意味があって──』


…というか。普通に考えて、直射日光の当たる窓際が、どこよりも暑いだろ。本当、自分ばっかりだな皆。これこそ“あはれ”だろ。


…いや。


むしろ、“をかし”なのか?



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