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文句言いっこなしの三重奏
第10章 クレッシェンド
『ほの、手を見せて…』
崇臣が手に取ったそれは、まるで別人のものだった。僕達のよく知るほのりの手。柔らかくて小さくて、可愛らしいその両手にできた───痛々しい血豆。腫れ上がり、皮膚は硬くボコボコで、所々擦り切れて…目も当てられない有様だ。
『ほの…痛かったね。よく我慢してたね。』
そっと手を包み込んだ崇臣と目が合うと、ほのりはまた、大粒の涙を零して泣きじゃくった。悲痛な叫び声だけが、もの静かな神社にこだまして。それからほのりが落ち着くまで、元木ユミコは背中をさすり、崇臣は手を包み、二人して優しい言葉をかけ続けてやっていた。けれど僕は…何も、かける言葉など見つかりはしなかった。
同じクラスに居た癖に…
全然気づいていなかった。何も気づいてあげられなかった。ほのりが悩んでること、一人で戦っていたこと、手の平の傷も、何もかも。
なんて恥ずかしいんだ、僕は。
崇臣がイジメを疑って、だけど僕は半信半疑で。それで結局、こんな事実を知るなんて。なんて愚かなんだ…
そうやって頭の中で自分を責めることしか、僕には出来なかった。