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文句言いっこなしの三重奏
第3章 前奏曲
『ビシビシ指導ねぇ…それじゃあちょっと、射形やってみる?』
『え?』
言うなり、先輩は道場の奥へと歩き出した。普段、練習前にするのと同じように神棚に一礼をし、それから弓を手に取った。
『的はないけど。灯りはまだついてるから、いいでしょ?』
道場の先…屋外にある安土(あづち)へ目を向け、先輩は言った。安土とは、的を掲げる土山のことだが…練習を終えた今、的は全て片付けられている。
『ほら、英くんも。』
促され、僕も弓を取りに行く。的がないので当然だけど…矢は持たない。弓だけを使って、矢を射る動作を行うこと。それはれっきとした弓道の練習法であり、先輩はこれをやろうと言っているのだ。
並んで立つと、自然と会話は止む。
しん…っとした道場に、風が抜けて。
僕に背を向けた先輩は、
ふう…
静かに呼吸を整え、弓を引いた。