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文句言いっこなしの三重奏
第3章 前奏曲


気づけば僕も、先輩の後ろで射形をとっていた。


どれくらい経ったのか


『…いいわね、とても綺麗。』


ふと、先輩が言った。


『あ…なんか、すみません。』


声をかけられた時にはもう、先輩は自分の射を止め、僕の型を見てくれていた。そもそも指導を願い出たのは僕の方なのに…指導を仰ぐどころか、一人で勝手に夢中になっていた。


『ふふ。いい集中力だったわよ?これなら明日は、いい射が期待できそうかな?』

『う…精進、します。』


あはは…っと、無邪気な声をあげた先輩は、やっぱり部活中の人とは別人みたいだった。綻んだ顔は、何だかいつもより幼くも見える気がして…僕もつられて頬が緩んだ。そうしてひとしきり笑い合い、次第に落ち着きを取り戻した先輩は


『…やっぱり、弓道はいいわね。道場も。こうして弓を引くだけでも身が引き締まるわ。』


清々しく、道場を見上げた。その横顔が…やけに印象的で。


“もっと、弓道がしたい”


そんな声が、聴こえてくるかのようだった。



『…さてと、もう閉めなくちゃ。無理に引き止めちゃってゴメンなさい。また、明日。』


そう言って道場を出た後、先輩は足早に部室へ向かったのだった。



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