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キセイジジツ
第1章 帰省
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'真悠子伝説'を思い出した途端、ため息が出た。
私が家族に秘密で祖母宅へ向かう事など、真悠子にはいとも簡単にバレていたのだ。
ーーーあとでまゆちゃんに電話してみよ。
謎が解けて意識が現実に戻る。
視線を前に移すと運転している元兄ちゃんも助手席の美咲さんもずっと黙っている事に気付く。
私に気を遣ってくれたのかもしれない。
「元兄ちゃん」
「んー?」
元兄ちゃんは振り向かない。
「何でまゆちゃんにバレたか、何となく分かった」
「うん、良かったな」
それっきり、また黙ってしまった。
静まりかえる車内。
もうすぐ目的地へ到着する。
今だけは、沈黙が心地良かった。
ーーーーーーー
赤色の瓦屋根が印象的な平屋が見えてきた。
「着いたよ」
駐車されたのを確認して車を降りる。
変わらない祖母宅だ。
庭と呼べるか分からない玄関までのスペースには祖母なりの家庭菜園が広がっていて、今年はキュウリやミニトマトの他に小ぶりなカボチャまで実っていた。
「ばあちゃーん」
元兄ちゃんが玄関を開けて呼びかけると、無言で裏口から出てきた祖母がなにくわぬ顔で歩いて来た。
「よく来たね」
私の姿を見つけると軽く微笑んだ…ような気がした。
なぜそんな風に表現したのかと言うと、私は昔から祖母の笑った顔を一度も見た事がないのだ。
元兄ちゃんによると、年に数回ほど口角を上げて笑うらしい。
悠真はそんな祖母を苦手に思っているけど、私は照れ屋なのかな?と思っている。
「おばあちゃん、元気にしてた?」
「見ての通りだよ」
言葉数は少ないけど決して冷たいわけじゃない。
「ばあちゃんも悠里も中入ろー」
美咲さんを先に玄関へ押し込みながら元兄ちゃんが手招きする。
「はーい」
返事をしながら祖母の背中を押して玄関へ入った。
居間に入るとローテーブルの上にお菓子がたくさん置いてあった。
たったそれだけの事で胸が温かくなる。
「荷物置いてくるね」
泊まりに来る度に使わせてもらう部屋に荷物を置いて、バックから紙袋を出して居間へ戻る。
「おばあちゃん」
「何ね?」
「しばらくお世話になります」
予め購入しておいた手土産を渡す。
「はいはい」
その瞬間、祖母の口角が上がったように見えた。
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