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キセイジジツ
第6章 誤解

きつくないのだろうか?と真人が思うほど、元は勢いよく炭酸飲料を喉に流していく。
一口目で半分近く飲んだところで口を離した元が視線だけを真人に向ける。

「何かあったんだろ?」

感情が読みとれない表情をして真人を見つめるその目だけが少しだけ細まる。

「な、んで……」

昔からこの目が苦手だ。
何も言わなくても全てを見透かしたような真っ直ぐで陰りのない茶色の瞳。
奥に写るのは動揺した表情の俺。

「何でって、」

元は視線を真人から外して再びペットボトルに口をつけるが飲まずに動きを止めた。
たった数秒の動きが真人には長く思えた。

「お前より大人だから?」

そう言いながら口角を上げている。


「どーせ、悠里がらみだろうが」

真人が黙ったままなのを返答だと受けとった元がニヤリとした。

「言えねぇの?…言わねぇの?」

「…言えない」

「それは悠里を傷つけるから?」

「っ……」

「それともお前が傷つきたくないから?」

「ちがっ……!」

「誰かは必ず傷つくだろーな」

「ぎっ……」

「誰も傷つかないなんて夢物語なんだよ」

「…」

「お前そんなにガキじゃねーだろうが」

「…」

「よく考えて自分で自分を理解させろ」

「…」

「それからな…」

そう言ってソファーから立ち上がり真人を見下ろす。
見上げたそこには、わずかな優しさの中に冷たさが混在した瞳があるだけ。

「お前が誰より痛いほど解ってるはずだが、何があろうとお前達に……それ以上、は無いんだ」

元がリビングから出て行った。



真人は自身の瞳から雫が零れるのを感じた。

ーーーいつ以来だ……?こんなに苦しいのは…


手の甲で拭うとそれは雫の形を留める事が出来ずに、やがて消え去る。

ーーー解ってる。誰よりも解ってる。


幾度と拭ってもきりがない。

ーーーそれでも。それでも俺は……


堪えていた何かが決壊したかのように。

ーーーずっと、近くで見守ってきた。


雫が膜を呑み込み、何も見えない。

ーーー俺が見ていたいのは…どれだ……?


脳内が真人の心を邪魔する。

ーーー本当は俺は……どこにいきたいんだ?



今は何も解らない。解りたくもない。

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