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キセイジジツ
第6章 誤解

「どうした?」

俺が尋ねると「うーん…」と唸っている。

「何か…この場面に見覚えがあるような……」
「見覚え?」

次は俺が不思議そうな顔をして悠里を見つめる。

「うん。私の頭を撫でるのってたけちゃんくらいでしょ?なのに今悠真に撫でられて……前にもこんな事あったような感覚があって」

「誰かに頭撫でられたの?」
「覚えてないんだけど…」

「それって、デジャヴってやつかな」
「デジャヴ?」

「既視感ってやつ。一度も経験した覚えはないのに、経験したように感じる事だよ」
「悠真、物知りだね」

「デジャヴって響きが好きなだけ。それはさ、夢で見たとかじゃなくて?」
「夢?たぶん夢じゃな………あっ!」

悠里は少し驚いた表情で口を開く。

「そうそう、夢だ。昔から夏の時期だけ見る夢がそんな感じなの!」
「夏の時期だけ?」

「変でしょ?夏だけなんて。設定も同じなんだよ~」
「どんな?」

「場所は分からなくて、私は保育園児の頃っぽくて。私より大きい男の子が私の頭や頬を撫でて……『けっこんしようね!』って言うの」
「へぇ、ませてる子だね」

「夢の中の私もなぜか即答で『けっこんする!』って笑顔で答えててね……」

俺は一瞬、胸がドクンと鳴るのを感じた。

なぜなら俺はこの話と似た話をどこかで聞いた。

「しっかり指切りげんまんもしてるんだよ~」

そう、つい数時間前にあの人から聞いたんだ。

「でもね~いつも周りがまぶしくて、その男の子の顔は見えないの。変でしょ?」

夏の時期に幼い女の子と出会ったと。

「私そんな記憶ないし、男の子の幼なじみっていないから、その夢を見る度に不思議でさ~」

顔も名前も覚えてないけど可愛い子だったと。

「その男の子が実在したら、私の婚約者になるな~とか想像したり」

確か唇にホクロがあったと。

「むしろその男の子がたけちゃんならいいな~って思ったりね」

ーーー違うよ、悠里。
その子は、健兄ちゃんじゃない。

「私が中学に上がった頃からたけちゃんが頭を撫でて、そのあとは決まって頬を触ってきてたから……その男の子イコールたけちゃんって思いたかったの……」

悠里が切なげに目を細める。


ーーー悠里と健兄ちゃんが俺を迎えに来た時にふと悠里の唇を見て感じた感覚。

一つのホクロ…

俺の直感はどうやら当たっていたみたいだ。
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