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キセイジジツ
第6章 誤解

直感は当たったと思うが、確証はまだない。

第一、俺の記憶にも悠里が見知らぬ男の子と出会っていたなんて事実は存在しない。

いくら幼かったとはいえ、4、5歳くらいの子でもその頃の出来事をしっかり記憶として残している子供の方が多い。

だから、悠里が覚えてなくても、片割れである俺は覚えてるはずだ。

なぜ俺達は記憶してない?

記憶が存在してないんじゃなくて…
事実が記憶されないように、誰かに手を打たれた?

ではその誰かは誰なのか。

決まってる、あの人しかいない。

もう確かめるしかない。



「…悠真?どうしたの?」

思考を巡らせて黙っている俺に、悠里は不安そうな、だけど気になるという目を向けている。

「いや……そんな夢もあるんだなと思って」
「悠真もそう思う?」

「うん。じゃ…この夢の事、誰かに話した事ある?」
「ううん、ないよ」

「母さんや…他の家族にも?」
「うん、言ってない」

ーーーなるほど。

「悠真に言わなかったのも、ただの夢だって認識してそれほど気にしてなかったから」
「うん。俺が悠里なら、言わないと思うよ」

時計に視線を流して、だいぶ時間が経った事を確認する。

「もうこんな時間だしお風呂入っておいでよ」
「悠真はあとで良いの?」

「あぁ、俺はあとで良いよ」
「分かった。入ってくるね」

悠里が浴室へ向かうのを見送り、俺は真人の部屋へと足を進める。

「真人兄ちゃん」

襖を叩くとしばらくして開かれる。

「何だ?」
「…ちょっと話があって」

真面目な顔で低い声を出す俺に、普段と違うものを感じたのか、襖をすべて開けて招き入れる。

ベットに腰を下ろしながら真人は無言のまま、視線だけを俺に向けた。

「あのさ、悠里と俺さ、保育園児の頃の事ってあまり覚えてないんだよね」
「…だから何だ?」

「今までその頃の事を覚えてない事なんて気にした事なかったんだけど、今日気になる話を聞いてさ」
「気になる話?」

「ある女の子と男の子が夏の時期に出会ってさ『けっこんしようね』って約束する話で……」

真人の顔が強張っていく。

「その女の子はその出来事を現実の事だと知らなくて、夢の中での気にしなくて良い事だと思ってる」

ゆっくりと目が閉じていく。

「そして、その男の子はその女の子に今でも会いたいと思ってる」

目が一瞬で見開かれた。
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