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キセイジジツ
第6章 誤解

「その辺にいる男ならあしらうのは簡単なんだが、健はしつこくてさすがの俺も諦めた。
いや、諦めたってのは違うな……健が何度も触っても悠里は思い出さないって俺も確信したんだ」

「だから母さんや父さん、そしてお前にも話さなかった。お前も自分がケガした事なんてケガが治る頃には忘れて悠里と遊んでたし、母さん達も悠真のケガが大したことがなくて安心してたし、可愛い悠里をそれ以上責めることはなかった」

真人は目を閉じて口角を少し上げている。

「それからかな、母さん達が真悠子や俺よりも、お前達を可愛がるようになって…俺はお前達に少しだけ嫉妬してた。真悠子は全く気にしてなかったけどな…ははっ」

「まゆちゃんらしいね」

「いろいろな事情や感情が重なった結果、何があっても言わないと決めたんだ。
でも、その男の子が現れたなら話は違う。元兄といっしょに何度探しても見つけられなかったんだ……なのに何でお前が会ってんだ?しかもこの話までその子から聞いて……悠里の事覚えてんのか?!」

真人が俺の肩を強く掴む。

「いてっ…真人兄っ落ち着いてよ。話すから」

手の力が緩んだ。

「あっ悪い…」

「その人とは元々顔見知りではあったんだけど名前とかは知らなくて、今日も偶然会ったんだ」
「顔見知り?」

「うん。いっしょに映画を見て、そのあと飯もいっしょして…」
「待て。悠里もいっしょにその話を聞いたのか?」

「あっ……いやぁ……」

俺はまさかのタイミングで言葉の選択を間違えた。
同級生ならいくらでも誤魔化せるが、真人に誤魔化しは通用しない。

「お前、俺に嘘ついたな。どれが嘘だ?」

「そのぅ……悠里は……いませんでしたっ」

「あん?その場に'たまたま'悠里はいなかったのか、それとも'元々'いなかったのか、はっきり言え!」

真人が猛獣のような鋭い目つきで俺を見つめている。
正直に話さないと'回し蹴り'が飛んできそうだ。

「うっ……悠里は……元々いませんでした!」

「あ"ぁん?!」
「すみません!…嘘ついてすみません…」

「あ"ー…何となく感じた予感はこれだったか…
チッ…悠里の事は気になるが後だ。先にその男の事を話せっ」

苛ついた様子の真人が俺を睨む。

「その人は…長田さんって言って」
「は?長田?誰だよ」

「…健兄ちゃんの友達なんだ」

真人の瞳が激しく揺れた。
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