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キセイジジツ
第6章 誤解
「おい……健のダチって……お前と顔見知り……長田?いや…俺は分かんねぇけど……健っ?!」
いつも冷静な男が激しく取り乱している。
「それっ…本当なのかっ!?いやまず、何でお前が顔見知りなんだよ!?」
「あ、俺1年前に一人でこっち来て…」
「は?そんな事聞いてねぇけど!」
「誰にも言ってないから。もちろん悠里にも」
「なっ…」
「一人で来た理由は内緒。会ったのは健兄ちゃんだけでばあちゃんはもちろん、元兄ちゃん達も知らない」
真人は黙って話を聞いている。
「健兄ちゃんに頼んで内緒にしてもらったんだ。んで、健兄ちゃんが友達と遊び行くのに連れて行ってもらって、長田さんと会ったんだ」
「長田さんは愛想良く挨拶してくれたけど何となく不思議な雰囲気でそれ以上は話せなくてさ。俺は他の友達…確か築地さんって人に相手してもらって。だから長田さんとは顔見知りで終わった」
「それで今日映画館で偶然会って流れでいっしょに映画見て飯食って意気投合して……その時の話を聞いた」
「最初はそんな事もあるんだって、切ない初恋話だなって長田さんを不憫に思っただけで…悠里と合流するまでは深く考えてなかったけど、悠里の唇のホクロを見て俺の勘が働いた」
「勘?」
真人が訳が分からないという表情をしている。
「そう、勘。長田さんの話では長田さんが小学生の頃に出会った女の子の唇にはホクロがあったんだって。
顔も名前も全く覚えてないけど、唯一唇にホクロがあった事だけは覚えてたんだ」
「ホクロなんて誰にでも…」
「まぁホクロだけならね。俺も悠里の唇のホクロを見ただけでは'勘'止まりだったよ。だけどさっき悠里から昔からよく見る夢の話を聞いてそれは'直感'になった」
「夢?」
「悠里は昔から夏の時期だけ、ある男の子と幼い自分が結婚の約束をしている夢を見てるらしい」
「えっ…」
「幸いな事にその夢をただの夢だと信じてるし、男の子の顔も夢の中では見えないんだってさ。もうさ……長田さんと悠里の話があまりにも合致してるもんだから驚きを通り過ぎて怖いくらいだよ…」
「きっと何も言わなければ、悠里も長田さんもこれ以上に気付く事はないよ。でもそれは正しい事なのかな?」
「どういう意味だ?」
「再会すべき二人を俺達の都合で引き離したままで、本当にいいのかな?」
俺は静かに言葉を吐いた。