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キセイジジツ
第6章 誤解
「っ…!…それは……」
「俺だって真人兄の気持ちも分かってるし、健兄ちゃんの気持ちも分かるけど…」
「健は…やっぱり…」
「兄貴や従兄弟っていう贔屓目で見ても俺は、長田さんの想いを何とかしてあげたいと思った」
「長田さんはあれから何度も何度も悠里の事を探したって言ってた。顔も名前も思い出せないけど探したって。きっと会えたら思い出せるかもって淡い期待を持ってたんだと思う」
俺は長田のその姿を想像して胸が傷んだ。
「何だよその少女マンガみたいな話は?って俺は思ったよ。いや、マンガより酷いかも。マンガなら誰かが教えてくれたり運命の再会を果たす事が出来る。
でも現実は……悠里と会ったとしても、長田さんは悠里をあの女の子だと気づけない」
「気づけない?」
「俺達は近くで悠里の成長を見てきたし、健兄ちゃん達だってそれは同じでしょ。それでも悠里と1年半くらい会わなかったら…保兄ちゃんは元兄ちゃんに言われるまで、悠里を悠里だと気付かなかった。
健兄ちゃんと悠里が親しそうに話してるのを見れば悠里だと気づきそうなのに、だよ?」
「それは…」
「そうなると長田さんは最早気づきようがないでしょ。'すごく可愛くて唇にホクロがある女の子'くらいの情報だけじゃ…ね」
「確かに」
「黙ってるのは簡単だよ。でも悠里と長田さんにはそれを聞いて理解する権利があると思う。理解した上でそれからどうするかは当人達の自由だしね」
「それはそうだが…でも…」
「真人兄」
俺はまっすぐに真人の瞳を見つめる。
「傷つかない人なんていないんだよ」
真人が目を見開いて俺を凝視する。
「ゆうま…お前…っ」
「みんな…傷つくかもしれないけど、それは始まりでしかないはず。だから、どうしても助けを求められた時にいっしょに考えてあげればいいんじゃない?」
真人が仕方ないという様子で息を吐く。
「お前にそんな事言われるとは…俺もまだまだだな。これじゃ教師への道のりも危うい、か。
んまぁ……悠里ももう高校生だしお前みたいに考える事も出来るだろう」
「それは…」
「俺が悠里に話す。お前はその長田ってやつに話してやれ」
「了解」
「悠里には明日話すからな」
「ん、頼んだよ」
俺は静かに部屋を出た。
「今日は……寝れねぇな……」
携帯を取り出してラインのメッセージを送信した。