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キセイジジツ
第8章 正夢

「何か…すみません」

時間通りに迎えに来た長田は助手席のドアを開けて悠里を車に乗せ、自分も乗り込むとすぐに謝ってきた。


「へ…?」

悠真の事で謝らなければ…と思ってた私はなぜ長田が謝るのか分からずに呆けた声を出してしまった。

「いや…悠真くんが来れないのに悠里ちゃんだけ来てもらう事になって…嫌じゃないですか?」

ーーーそういう事かぁ。でも…

「…私は大丈夫です。むしろ喜んで来てます。謝らないといけないのはこちらの方で…悠真がすみません!」

謝りながらも、長田の言葉遣いに違和感を持った。

「いやいや、よく聞けば敦(あつし)…あ、敦って築地ね。あいつが悠真くんの事無理に誘ったらしーから気にしないでください」
「あ、はい。分かりました。あの…失礼ついでにひとつ気になってる事があるんですが…」

「何ですか?」

ーーーほら、また。

「長田さんはどうして私に敬語使うんですか?」

初めて会った時ーー
秦家のキッチンで話したときは敬語なんて使ってなかったし、健といっしょにコーヒー店で会った時もそんなに言葉は交わしてないけれど敬語ではなかったはず。

「えっ…俺敬語使ってた?」

驚きながら私を見つめる。

「さっきから使ってますよ?年下の私に敬語なんて使わないでください。何か…変な感じです」
「あーそうだよね。無意識だったなぁ。でもごめんね、これ俺の癖だから気にしないで」

頬をポリポリと掻きながら、はにかんでいる。

「癖、ですか?」
「うん。どんな癖かは内緒。…それより悠里ちゃんは何歳から書道してるの?」

私がそれ以上尋ねないように長田は声のトーンを低くして内緒だと言い、すぐに話を変えてしまった。

ーーー内緒って言われると気になるけど…言いたくない事を無理に聞くのも失礼だよねぇ。

「書道は小学1年生の頃始めたので…7歳からです」
「じゃあ…もう9年くらいなんだね。書道を始めるきっかけって何だったの?」
「きっかけですか?」
「うん、きっかけ。だって習い事ってたくさんあるでしょ。そんな中で何で書道を選んだのかなーって。あっでも、言いたくなかったら言わなくていいからね」

長田はニコッと一瞬私を見て笑う。

「きっかけと言えるのか分かんないですけど、保育園児の頃は…」

私がそこまで話した時、長田の携帯が鳴った。


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