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キセイジジツ
第8章 正夢
長田は携帯にチラッと目を向けるだけで電話に出ようとはせず、手元は見ずに音量ボタンを器用に押してマナーモードに切り換えていた。
「電話出なくていいんですか?」
しばらく鳴り響いた着信音から相手の方は急用ではないのかと思いながら尋ねると、長田は前を向いたままサラッと言った。
「うん。だって運転中だし危ないでしょ。今は特に悠里ちゃんを乗せてるしね」
ーーーへぇ…逆に運転中は何も気にせずに電話するタイプかと思ってたなぁ…何となく。
でも勝手に決めつけちゃダメだよねぇ。
私は長田の事を初対面での印象だけで判断していた事を密かに反省していた。
「あっ悠里ちゃんのきっかけ話の続きはまたあとでね。もう着くから」
「あ、はい…」
そう言われて窓の外に目を向けると一軒家が建ち並ぶ風景の中に、一軒の平屋が見えてきた。
敷地面積も広く、平屋と言っても立派で一般的な一軒家にも劣らない自由な造りだ。
ーーーおばあちゃんちより大きい…
「ここです。教室って言っても…俺の家なんだけどね。さっ降りよう」
敷地内に車を停め終えると少し照れくさそうに説明してくれる。
「素敵なお宅ですね」
車を降りて長田に続いて玄関へと向かう。
「そうかな?…ありがとう。どうぞ」
古き良き時代を感じさせる引き戸式の玄関を開けて、私を招き入れてくれた。
玄関の正面はすぐに行き止まりになっていて、左右へと廊下が続いている。
不思議な造りだなぁ…と目を左右へ振っているとそれを見つけた長田がふっと笑った。
「やっぱり、それが普通の反応だよなぁ。俺はこれが当たり前過ぎて麻痺してるけど、普通に考えるとこんな造りは珍しいよね」
私の方に体を向けて自分の左手を右側の廊下へ差す。
「悠里ちゃんから見てこっち…右側の最初の部屋が教室で、その先に和室が二部屋、一番奥はお手洗いで行き止まり。主に来客の方を招くのは右側かな。で、反対の…」
次は右手を左側の廊下へ差す。
「左側は台所や居間、いくつか和室があって俺の居住スペース。あとで案内するね。ほら、上がってよ」
「は、はいっ」
玄関で突っ立ってたままの私は慌てて靴を脱いで上がらせてもらう。
そして右側の最初の部屋に入ると、そこは10畳ほどの和室を二部屋繋げて出来た20畳にもなる広さの部屋。
私は軽く目眩(めまい)を感じていた。