この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
キセイジジツ
第8章 正夢
「健兄ちゃんが高校生になった時、私まだ小学生で、あまりの変貌ぶりに驚いたのを覚えてます…ふふっ。でも、どんなに外見が変わっても健兄ちゃんの中身はそのままなんですよね…」
俺が相づちを打たなくても悠里は言葉を続けている。
その姿から本当に健の事を好きなんだと思った。
ーーー当たり前だろーけど、健の事ばっかだな。
それと同時に胸がズキズキと音を立てて、心を掻き乱す。
ーーーそんな顔して健の話なんかするなよ。
その瞳はすでに俺の事なんか見てなくて、ベットに置かれたもう一つのアルバムに向けられている。
ーーー少しでいいから俺の事も見てよ。だって俺は……っ!
「…な…がた…さん…?」
いつの間にか…手に持ってたアルバムを投げ捨て、悠里の両手首を掴んで押し倒していた。
困惑した瞳に、俺の名を呼ぶ唇…その唇には一つのホクロ。
ーーー確かにこのホクロだ…
あの日あの時の女の子の口元を思い出す。
髪がシーツで擦れてカサッと音を立てた。
掴んだままの手首がピクッとわずかに震えるが、悠里は動こうとはしない。
俺を見上げる瞳はもう困惑で揺れていなくてーー
この体勢から起こる先を何となく理解した、そんな目だった。
「ゆ…うり…ちゃん…」
声が掠れて上手く出せないけど聞きたい。
ーーー俺の事、覚えてる?
悠里の瞳を見つめれば見つめるほど、はやる心とは裏腹に声が出ない。
たった一言なのに簡単な言葉なのに、次第にそれは頭の奥へと消えていく。
「俺の…事……どう思う?」
「えっ…?」
「…俺も中学と高校とで変わってると思うんだけど…どうかな?」
「えっと…」
この期に及んでの的外れな質問にも関わらず、悠里は真面目に答えようとしてくれている。
「長田さんは…中学では短髪だったのに髪が伸びてますよね。短髪でも素敵だったけど、長髪の方が似合ってると思います!」
ーーーあれ。今のセリフ、どこかで…
何となく違和感を感じながらも、その言葉だけで十分だと思えた俺は、手首から手を離して悠里の頭を撫でる。
「そっか…ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ。手首を掴んでごめんね」
あの時女の子にしたように左頬を手で包む。
「驚かせてごめんね。俺が言うのもなんだけど、悠里ちゃんには笑顔が似合うよ」
しばらくの間、手を離せずに悠里の頬を撫でていた。