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キセイジジツ
第8章 正夢

ーーーどうしてこんな体勢に…?


アルバムについて話していただけなのに、長田は急に悠里の両手首を掴んでベットに押し倒したのだ。

訳が分からないけれど、この体勢と長田の切なげな瞳や表情を見れば、いくら鈍感な悠里でもこれから起こる事に勘づいた。


ーーーそっか…長田さんも男性だもんなぁ。でも…

何となく長田は無理矢理に自分を襲ったりはしないだろう…という直感を信じる事にした。

ーーー書道をしている人にも、たけちゃんの友達にも、そんな悪い人はいないはずだし…

理由はどうであれ、長田に抵抗しないのには十分だった。

「俺の…事……どう思う?
…俺も中学と高校とで変わってると思うんだけど…どうかな?」

とても静かに淡々と尋ねてくるその様子に、本能的に真面目に答えなければ…と思った。

私の答えに満足してくれたのかどうかは分からないけれど、長田は手首からそっと手を離すと優しく微笑んで私を見つめ、頭を撫でてきた。

その顔に先ほどまでの切なさはない。

ーーー長髪の事を褒めたのがよかったのかな?

そう思って見つめていると長田の手のひらが私の左頬をゆっくりと包む。

ーーーえっ……

「驚かせてごめんね。俺が言うのもなんだけど、悠里ちゃんには笑顔が似合うよ」

私の頬の形を確かめるような動きに、健の触り方とは違う事を確認しながら、頭の奥底に眠っていた小さな記憶を手繰り寄せる。

ーーー私…この手を覚えてる。
たけちゃんよりもずっと前に、この手でこんな風に触られてた。
でも……いつ?


よく考えれば分かる事。

核心に迫るのが怖いだけ。


ーーーまさかね…。違うよね?こんな事って…

私をベットから起き上がらせてくれる長田を見つめていると、この視線に気づいてふっと笑う。

「安心して。キミが嫌な事はしないから」

ーーーそっか。そうだったんだ…

そのセリフを聞いた瞬間…

あの時の男の子と長田の顔を重ねた。

ーーーどうしてこんな大切な事を忘れてたんだろ。
私はこの人のおかげで……

「どうしたの?」

黙ったままの私を見て長田は不思議そうに首をかしげる。

ーーーこの首のかしげ方もあの子と同じ。

「長田さん、変な事聞いてもいいですか?」
「うん?答えられる事なら…」

「長田さんって昔…」

タイミング悪く長田の携帯が鳴り響いた。
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