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キセイジジツ
第8章 正夢

「あっごめん、生徒の保護者からだ。受けてくるね」

長田はすでに先生の顔になっていて悠里に断りを入れると足早に部屋から出て行った。

何となく'保護者からの電話'が気になって長田の声がする居間へ入ると、電話を片手にテレビのリモコンを触って電源を点けているところだった。

選局ボタンを押して天気予報があるチャンネルにすると長田の表情が強ばった。

「本当だ…」

私は天気予報よりも長田の表情が気になっていた。

眉間にシワが深く出来るほど眉を寄せて渋い顔をしている。

「そうですね…今日のところはそうしましょう。何より安全第一ですから。はい、はい、失礼します…」

通話終了ボタンを押してため息を吐く長田に近づく。

「長田さん?」

ビクッとしながらも私を確認すると長田は安心したように軽く笑う。

「悠里ちゃん…」
「どうしたんですか?」

首をかしげる私に長田は親指を立ててテレビを差した。

「この豪雨のせいで、今日教室は休みになりました」
「そうなんですか…ってえぇ!?豪雨?!」

縁側に駆け寄って外を見ると…確かに地面が見えないほど庭に水が溜まっている。

窓も狂暴な音を立てて揺れていて今にも飛んでいきそうだ。

「暴風・大雨警報が発令されたみたい。これじゃ家から出るのは無理って事でね。他の生徒の親御さんにも連絡しないと…」

ーーーえっ!?

長田は手帳を開いて順に連絡を入れている。

ーーーもしかして、私も帰れない感じ?!
…って事は長田さんちにお泊まりなのぉ~?!
まだ…心の準備が出来てないよ…
いやいや、何の準備をするのよ!私っ!!

よからぬ妄想を繰り広げつつ頭を抱えてウロウロしていると、何件か電話を終わらせた長田が横目で私に視線を移してふっと笑った。

「大丈夫?」
「はっはいぃ!だいじょーぶですっ!」
「そう?…あ、そこの急須にお茶っ葉入ってるからポットからお湯注いで飲んでいいからね」
「はい、ありがとうございます」

言われた通りに急須にお湯を注いで蒸らしながら長田を見つめる。

嫌な顔は一切せずに電話応対を続ける長田はとても大人に見えた。

ーーーたけちゃんや真人兄ちゃんとはまた違うタイプなんだよねぇ。

電話を終わらせた長田が振り返る。

「悠里ちゃん。あのさ……」

眉を下げた困り顔で私を見つめている。
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