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キセイジジツ
第8章 正夢
「…今日はウチに泊まってもらわないといけないかも…」
ーーーやっぱり…
「風や雨が弱まって車が出せるようになったらすぐ送ろうと思うから…悪いけどそれまではウチで我慢してくれるかな?」
長田はまるで自分が悪いかのように小さな声で呟く。
ーーー長田さんは悪くないのにな。
「はい、大丈夫です」
「ホント?…あっ、あとさ…」
一瞬パッと顔を上げた長田はすぐに何かを思い出したようで目を伏せる。
「さっき健から電話あってさ、健に…」
「えっ!」
健の名前に過剰反応をしてしまった。
「うん、健ね。折り返ししようと思うんだけど、悠里ちゃんの事はどう話すべきか迷ってて」
「ど、どうって…?」
「正直にウチに泊まらせるって話すのか、手伝いは中止にしてウチにはいないって話すのか…俺はどちらでもいいんだけど、悠里ちゃんはどうかなって思って」
「あっ…」
ーーーそっか、きっとこの天気だからたけちゃんは心配してるはず。…私にもたぶん連絡きてるはず。
自分の携帯は教室に置きっぱなしにしてきたのを思い出す。
ーーー私達は…何ともない関係なんだから素直に泊まるって話していいのに。
じゃあ、ここにいないって話すという選択肢は何の為?もしかして…長田さんは、私の心配をしてくれてる?
「あの…長田さん。違ったらすみませんけど、私の事気遣ってくれてます?」
「え?」
「だって、普通なら健兄ちゃんには'雨がひどくて車出せないから泊まらせる'って一言言えば問題ないと思うんです」
「…そうだね」
「なのに'ここにはいない'って嘘をつくメリットは長田さんにはないはずですし、そう考えると私の為に選択肢をくれてるんじゃないかなって思いまして」
長田は目を見開いて私を見ると「するどいなぁ…」と聞こえないように小さく呟く。
「確かに俺に嘘をつくメリットはないよ。だけど悠里ちゃんは未成年の女の子で、俺は年頃の男だし、ひとつ屋根の下で二人っきりで一晩過ごすってなると周りは心配すると思うんだよね」
「二人っきり?」
「そう。俺ここに一人暮らししてるから二人っきりになるんだよね」
ーーーここに一人暮らしなの?
「特に健はさ、悠里ちゃんの事可愛い妹みたく思ってる感じだし心配させちゃうかなって…」
ーーーたけちゃん…
「そんな訳だからね。…どーする?」
答えはもう決まってる。