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キセイジジツ
第8章 正夢

ーーー何でこんな事に……

隣で腕に絡みつく女を見下ろしながら健は大きくため息を吐いた。



遡る事、数時間前ーー

悠里を祖母宅へ送り届けてから自宅へ戻ると、携帯が震えて着信を報せた。

画面に表示されたのは、元カノの名前。

ーーーさっき会っただろうが…

プールで会った事を思い出しながら終了ボタンを押して着信を拒否する。

数分後にまた着信、俺が拒否、着信、拒否を続けて…俺が折れる。

「しつけーよ!なんだよ?!」
「あ~やっと出てくれたぁ~」

大声を出したにも関わらず、女は気にしてないのか甘え声を出す。

「ねぇ健~今から会えない~?」
「はあ?何でだよ。会いたくねーし」
「だって健、急に別れようって言うんだもん。マナ意味分かんないしぃ。寂しいよぅ」
「だーかーら、お前とは付き合った覚えねーんだよ。最初に俺ちゃんと言っただろーが」
「そうだけどぉ…健あんなにマナの事激しく愛してくれたし…」
「うるせーよ!あんなの性欲を満たす為だけの行為にすぎないんだよ!」

俺はいい加減イライラが止まらなくなって女を怒鳴りつけた。

しかし女も黙ってはいない。

「健ひどい……マナより今日いっしょにいた子がいいの?あんな子、マナに比べたら…」
「黙れ。お前に関係ない」
「かっ関係あるよ!健の彼女はマナの方が相応しいんだからっ!」
「相応しいとかそういう事じゃねーだろ」
「だって…!……あの子の事は本気なの……?」
「それこそ関係ねーよ」

しばらく女が黙る。

「もう用がないなら切るぞ。じゃー…」
「待って!じゃあ…一つだけお願い聞いて?」
「あ?」
「最後に一度だけデートして。お願い!」
「やだ」
「嫌なら、あの子に健の事バラすわ」
「おい…」

痛いところを突かれた。

「バラされたくないでしょ?ならデートして!」
「…一度だけか?」
「うん!一度だけ!」
「今後一切、俺に関わらないか?」
「…うん」
「あー……分かった」
「ホント?!やったぁぁ~!」
「で?いつ会うんだよ?」
「えっとねぇ~…」


俺は馬鹿野郎だ。

よく考えれば女が約束を守らない事なんて分かりきってるのに。

それなのに悠里に過去を知られたくないという気持ちが俺の冷静さを鈍らせ、判断を狂わせた。


「……お前、覚えてろよ……」

思い浮かべるのは悠里の笑う顔だけ。
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